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モエ・エ・シャンドンのシャンパーニュを飲む機会は多くない。最高醸造責任者ブノワ・ゴエズが先月、来日した際に3種のキュヴェを試飲したら、10年前、20年前と違っていた。よくできていると改めて感心した。
「モエ アンペリアル」を例にとろう。エクストラ・ブリュットを名乗れるくらいドザージュが控えめ。生き生きした酸としなやかなテクスチャー。ほのかな塩味を帯びた余韻が軽やかに伸びる。強い個性を押し出すわけではなく、初めての人が飲んでも満足できるバランスの良さがある。
メゾンによると、毎秒に1本開けられているという。世界で最も飲まれているシャンパーニュだ。年産量は2500万-3000万本と推測される。
5本に1本がLVMH傘下のブランド
栽培醸造技術がもたらした品質向上
2025年のモエ・ヘネシー(LVMH)傘下のシャンパーニュ出荷量は6010万本に達した。ブランドはMoet & Chandon、Dom Perignon、Mercier、Ruinart、Veuve Clicquot、Krug、Janisson & Fils。コロナ禍後のピークの2022年の7090万本に比べると減少しているが、世界市場の22%のシェアを占めている。販売されるシャンパーニュの5本に1本はLVMH傘下のブランドなのだ。
モエ アンペリアルの最大の強みは1300haにおよぶ自社畑を抱えること。パートナーの200haを合わせて、1500haの畑はシャンパーニュ地方の319村の9割にあたる282村にアクセスできる。霜害、猛暑、乾燥など気候が不安定な土地で、安定した生産量と品質を確保しやすい。
品質の安定と向上の理由は温暖化だけではない。栽培技術の向上で熟度が上がり、かつての青りんごやレモンの風味から桃やパイナップルの風味に変わっている。バランスがとれて、シャバシャバした味わいでなくコクのある味わいになってきた。
醸造では澱との接触期間が長くなり、ドザージュを減らせるようになった。20年前のドザージュ量はリットルあたり10グラムオーバーだった。現在のモエ アンペリアルは5-6グラムの辛口。それでも口当たりや飲み心地は以前より心地よい。アペリティフだけでなく、料理に合わせられるバランスの良さと構造がある。
どこもリザーヴワインを大量に保管している。LVMHの経営報告書によると、2019年でセラーに2億1900万本のボトルが保管されていた。リザーヴの量を調整して、ドザージュを減らし、酸味がまろやかでクリーミーなスタイルに仕上げられる。モエ アンペリアルは20-30%のリザーヴをブレンドしている。
ゴエズが「孤島に持っていくならモエ アンペリアル」と言うのは、調達能力と気候変動に対応する栽培醸造技術によるアッサンブラージュに支えられた"最新のシャンパーニュ"だからだ。
一方、「グラン ヴィンテージ エクストラ・ブリュット 2016」(Grand Vintage Extra Brut 2016)は、ゴエズが四半世紀かけて築いた方程式に基づいて構築されている。2016年は春霜、ミルデュー、夏の乾燥で収量が少なかった試練の年だった。メゾンの蓄積してきた歴史、収穫年に対応する技術力、高度なアッサンブラージュを総動員して造られた。
シャルドネ48%、ピノ・ノワール34%、ムニエ18%。フローラルで白桃、火打ち石、ローストナッツ、繊細さと豊かさが調和している。深みがあり、フレッシュで緊張感を帯びたフィニッシュ。6年間の瓶内熟成。92点。
余裕を生かして独創的なキュヴェにも挑戦している。280周年に合わせた「コレクション アンペリアル クリエイション No.1」(Collection Imperiale Creation No.1)は初めてのブリュット・ナチュール。大量のライブラリーワインを抱えるメゾンのリソースに、実験を繰り返してクリエイション(創造)した。
ステンレスタンク熟成のグラン ヴィンテージ 2013に大樽熟成の2012、2010、2008、2006、2000年、瓶内で9年間熟成した2004をブレンドした。3通りの熟成をしたベースをかけ合わせて、還元的なフレッシュ感、酸化的でオークのヒントもある複雑性、リージィな熟成感。ネクタリン、ミラヴェルプラム、キレのある酸、ち密で精細度が高い。重層的で焦点のあったフィニッシュ。細かい積み重ねでできたマルチヴィンテージ。これも最高の素材とそれを生かす時間があるからできる。シャンパーニュの原点であるアッサンブラージュの可能性を追求している。95点。
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