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世界のワイン産地で多彩なワインコンクールが開かれている。コンクールの信頼性と影響力を決めるのは、歴史の長さ、審査の厳格性、審査されるワインの多様性など様々な要素があるが、長く続いているのはそれらが充実しているものだ。何かのブームに乗って始めても消えてしまう。
コンクールを続けるには審査の信頼性が必要だが、そこには落とし穴がある。コンクールに出品できるのは、出品料やサンプルの送料などを負担できる資本力があるワイナリーだ。コストをかける以上、ワイナリーはメダルを獲得したい。そのため、主催者側で審査がゆるくなる可能性が生じる。例えば、シルバーメダルばかりの場合は、話し合いでゴールドメダルに上げるケースが起きる。
これをするとコンクールの信頼性が失われる。消費者が苦労してメダルのワインを入手しても、おいしくなければ次回から買わなくなる。メダルをとっても売れなければ、出品者は減る。出品ワインが少ないとコンクールの運営が難しくなる。コンクールが消えてしまう背景にはそんな事情がある。
インターナショナル・ワイン・チャレンジやデカンター・ワールド・ワイン・アワードが長続きして、メダルワインが市場で信頼されているのは、能力のある審査員による厳格な審査が続けられてきたからだ。
日本のワインコンクールの歴史は浅い。最も歴史があるのが「ジャパン・ワイン・チャレンジ」(JWC)だ。1998年に日本で創設された。人気の高まっている日本ワインコンクールは、日本ワイナリー協会、ソムリエ協会、酒造組合などの主催で2003年に始まった。田辺由美さんが代表理事を務めるサクラアワードは2014年に始まった。
私がJWCにジャッジとして参加するようになり4年がたっている。客観的な立場でブラインド試飲を続けてきた。今年は特に日本ワインの品質向上を実感した。ジャッジを続ける中で見えてきた日本ワインの現在地と未来を探る。
外国人がリーダーを務めるコンクール
日本人の美徳が足かせになることも
JWCはワイン・スカラー・ギルドの教育ディレクターのクリス・マーティンMWとワイン評論家の田中克幸氏の共同審査委員長という体制をとっている。日本人ジャッジのほとんどは、英国のワイン資格WSET最高峰レベル4のディプロマ保有者である。ディプロマ合格者は、年々日本でも増え続けていて、今年はJWCジャッジを志望しても採用されなかった人もいた。
JWCは日本のコンクールだが、英国、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、ハンガリーなど世界各国のジャッジが来日する。テーブルリーダーのほぼ全員が外国人なのは、日本のワイン産業が発展途上にあり、コンクールの審査に関しても外国からの学びを必要としている段階にあることの現れだろう。
JWCは埋もれている無名なワインを発掘して、消費者がワインを選ぶ助けになることをコンクールの目的のひとつとしている。
日本での小売価格帯を5段階(1000円以下、1000-1999円、2000-2999円、3000-4999円、5000円以上)にわけて審査する。「この価格帯でこの品質は素晴らしい。賞を授与して消費者にとって伝えるべきだ」という議論がなされる。
20点方式は英国で発展した評価形式だ。プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズと賞を割り振るのに20点方式を採用している。19点以上がプラチナ、18点台ゴールド、17点台シルバー、15.5-16.5がブロンズで、15点以下はメダルの受賞なしとなる。
プラチナやゴールドの点数をつけて、他のジャッジとかけ離れた点数だったら恥をかくという心理が働きがちなので、ジャッジは無難な点数に逃げたくなりがちだ。日本人は幼い頃から集団の中での協調性を大事にする教育を受けている。厳しい議論や評価になれていない。そこがコンクールの難しさだ。
田中・共同審査員長は日本人の特性を理解し、各テーブルを周り「もっと自信を持って、説得力を身に着けなさい」と、日本人ジャッジを鼓舞している。
私のテーブルリーダーはチリのマルセロ・ピノだった。2010年にチリで開かれた世界最優秀ソムリエコンクールで、日本代表の森覚氏と戦ったチリの最優秀ソムリエだ。デカンター・ワールド・ワイン・アワードの審査員も務めている。的確で素早い判断をする彼が、大分・安心院葡萄酒工房のアルバリーニョの品質の高さに目を見張った。
「この高品質なワインが、大分のワインと書いてあったので目を見張った」とマルセロ。7年ぶりのJWC審査で、日本ワインの品質向上を感じた。その一方で、ロゼのような赤ワインをテイスティングした時は、首をかしげていた。
日本でワイン審査をするのは難しいという。「日本のジャッジは高得点をつけることにやや消極的だ。優れたテイスティング能力があっても、他の審査員と対話して合意に達しなければ、チームに馴染めず次回は呼ばれなくなる。ワインに対する意見を主張し議論することは大切だが、押し付けてはいけない」
日本ワインの世界での位置
ジャンシス・ロビンソンが今年4月に来日した際に行った日本ワインのテイスティングの最高点は17点だった。下層シルバーの点数にあたる。日本ワインにはゴールドもプラチナもなかった。彼女の評価が絶対的に正しいとは言えないが、日本のワインコンクールの評価のゆるさを示したと言えないだろうか。世界の壁は高い。
ベルリン・テイスティング以降、急速に世界で評価されてきたチリワインの歴史を見てきたマルセロは、日本ワインの世界進出の可能性を厳しく見ている。
「世界のワイン消費量は急減している。多くのワイナリーが価格面で積極的な施策を取っているため、日本ワインが世界で市場シェアを獲得するのは非常に困難だろう。日本ワインは極めて高価である上に、日本は世界に知られるワイン生産国ではないから」
一方で、日本酒の成功体験は世界進出の鍵になると見ている。チリでは、レストランや専門スーパーマーケットで徐々に日本酒が普及して、消費も拡大しているという。日本酒の国際的なポジショニング構築には多大な努力がなされたに違いない。
海外のワインコンクールに出品するには、費用や言語といったハードルもある。生産者はJWCのように世界から有識者の集まる日本のコンクールに出品し、自らのワインの位置を知り、品質向上につなげていくことが重要になっている。
日本人ジャッジは、世界のジャッジと一緒に審査をすることで世界基準を知り、それを日本のワイン産業に還元することができる。コンクールは、メダルをとって販売促進につなげるだけでなく、日本のワイン産業全体の成長を促す役割を担っている。
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