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カオールの可能性示すコッセ・メゾネーヴ

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 青空からの眩しい日差しが初夏を感じさせる7月。ロット川沿いに車を走らせ、カオール地区ラカペル−カバナック村のワイナリー、コッセ・メゾネーヴ(Cosse Maisonneuve)を訪れた。共同オーナーのカトリーヌ・メゾネーブにワイン造りへの思いをうかがった。


 コッセ・メゾネーヴはマシュー・コッセとカトリーヌ・メゾネーヴが1999年に設立した。ボルドーで栽培醸造学を学び、研修を重ねたカトリーヌとマシューは自社ワイナリーの候補地として当初はボルドーのコート・ド・ブールやコート・ド・ブライなども考えていたが、カオールの可能性に魅せられた。


 5haの樹齢40年のマルベックの植えられたブドウ畑を買い取り、徐々に自社畑を拡げる。現在は28ha。2017年からすべてのワインを自社ブドウのみで仕込む。


カオールの持つ複雑な土壌構成


 カトリーヌがカオールに魅せられた一つがその複雑な土壌構成だ。


 「カオールの母岩は石灰岩。ブルゴーニュと同じなの」


 フランス全土の地質図を広げながら、カトリーヌは説明を続けてくれた。


 AOCカオールは蛇行を繰り返すロット川両岸の産地だ。カオールの街を中心やや東の位置とすると、東西48kmと南北27kmに3300haのブドウ畑が広がる。


 大きく2つのエリアに分かれる。


 1つはロット川河岸に近いヴァレ。河岸に最も近いところから第1、2、3テラスと再分割される。沖積岩からなる礫質土壌で、まれに石灰岩が混じる区画もある。カオール全体のブドウ畑の60%がこのエリアだ。


 残りの40%は海抜250mを超すエリアでコースと呼ばれる。母岩の石灰岩がより表土に現れており、主に灰色がかった石灰岩質マールが広がる。このコースのエリアの斜面上部に広がるプラトーのエリアでは、石灰岩を含まない赤粘土土壌の地区が点在する。


 コッセ・メゾネーヴではAOCカオールのワインを区画別に醸している。


 ワイナリーから程近い北向き斜面のブドウ畑は3区画に分ける。斜面最下部のより礫質粘土の区画からル・コンバル(Le Combal)。中腹部の白灰色の石灰岩質マール土壌からラ・ファジュ(La Fage)。そして、最上部の石灰岩混じりの赤粘土区画からレ・ラケ(Les Laquets)である。


 さらに、ワイナリーから25km離れたプラトーの上部に位置し、表土に石灰岩を含まず鉄分に富む赤粘土土壌の区画からラ・マルゲリーツ(La Marguerite)を産みだす。


 最適な栽培方法がマルベックのポテンシャルを引き出す。


 AOC規定では30%までメルローとタナのブレンドも可能だが、コッセ・メゾネーヴのカオールはマルベック100%だ。


 「メルローは赤粘土土壌の時により良いクオリティを発揮する。石灰岩主体ではあまり良くならない」。ボルドーで学んだカトリーヌらしい意図が垣間見える。


 畑ではビオディナミ農法を採用する。不耕起栽培を行い、畝には腰の高さまで伸びた約70種のカバークロップが茂っている。


 「バランスのよいブドウを収穫するために、このカバークロップと12頭の牛の放牧がとても重要なのよ」と、カトリーヌは強調した。


 マルベックの一番の難しさはタンニンだと、カトリーヌは言う。


 フェノリックの熟成を待たずに収穫すると野暮ったい厳格なタンニンになってしまう。そのようなブドウのタンニンは果実味、酸味とのバランスも整っていない。フェノリック熟成をしっかり待てるかどうかがブドウ畑での命題だ。


 「マルベックは鉄、マグネシウム、バロンの栄養素欠乏になりやすい。そしてこれらの欠乏でボトリティスが収穫の前時期に出てしまう」


 土壌への栄養の補填をカバークロップが行い、牛の放牧は土壌細菌の活性化を促すと、カトリーヌは語る。また、ビオディナミに基づいた葉への煎じ茶の直接散布もマグネシウムの補正に効果があるという。


 耐性の増したブドウ樹はボトリティスが出ない。そして収穫を適正な時期まで待てる。その結果、酸味とのバランスがよい成熟したタンニンのブドウが得られるのだという。


時代と共に変化するタンニンの扱い方


 ワイナリーにはコンクリート槽が並ぶ。「シュヴァル・ブランのようにスタイリッシュなセラーではないけどね」カトリーヌは屈託のない笑顔で笑った。


 抽出作業は非常にデリケートに行う。タンニンの扱い方はカオール全体で変化してきている。同じ日に訪問したシャトー・ド・セードルの3世代目ワインメーカー、ロビン・フェラージュも抽出の方法と時間が時代と共に変化していることを示唆した。


 以前はよりひんぱんに行なっていた発酵中のピジャージュは2回のみ行い、後は果帽表面を湿らすためのルモンタージュにとどめる。1か月を超すこともあったマセレーションは3−4週間だ。フラッグシップボトルのジェセ(GC)2014はタンニンレベルも高くよりタイトなタンニンなのに対し、2020は幾分穏やかなレベルのよりチョーキーなきめの細かなタンニンだ。


 熟成にはフレンチオーク樽を使う。アンフォラも試したが好みではなかった。酸味がワインから削られ過ぎてしまう印象を受けた。オーク樽にはこだりがうかがえる。仕入れはボルドーのクーパーと地元の友人から買い付け、2時間ゆっくりと加熱したロー・トーストを注文する。


 「樽熟成にメイクアップは求めない。調和とスタビリゼーションが狙いだ」


 熟成期間はその年のスタイルによって臨機応変に対応している。例えば、2021年は14か月熟成、2020年は28か月熟成。レ・ラケ2021は出荷済みだが、2020にいたってはまだ樽の中にいる。


 「マルゲリーツ 2020」は華やかなスミレ、完熟プラムに上品なパンデピスの香り。ピュアな果実味が口一杯に広がり、その凝縮感をしっかりと受けとめるきめ細やかなタンニンと清涼感漂う酸味にはっとさせられた。


 マルゲリーツの区画は2001年にトゥーレーヌのプレフィロキセラの畑からマッサールセレクションで苗を譲り受けた。最初の収穫は10年後の2011年。ブドウ樹の成長を優先するため、花を落とした。カオールに魅せられたカトリーヌとマシュー。その思いがこのボトルに詰まっていた。


Text & Photo by Raku Oda

ワイナリーにてカトリーヌ・メゾネーヴ
不耕起栽培のブドウ畑
フランス全土の地質図、黒ペンで囲まれたブルゴーニュとカオール
マルゲリーツ2020のボトル

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