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欧米にはワインコレクターの開くワイン会で、古いヴィンテージを楽しむ文化がある。日本にも少ないが、そうしたワイン会がある。フランスを中心に5000本を超すコレクションを有する吉川慎二氏の軽井沢の別荘で、シャンパーニュのドン・ペリニヨンの垂直試飲をする機会に恵まれた。解説とサービスはワインテイスターの大越基裕氏が務め、懐石料理は竹内正和氏が供した。
ドン・ペリニヨンは最も有名で、最も大量に生産されているシャンパーニュの一つだ。18世紀のレプリカボトルで1936年に世に出た1921ヴィンテージは、プレスティージュ・キュヴェの先駆けでもある。ブレンド比率はシャルドネとピノ・ノワールがほぼ半々だが、通常はシャルドネが5％多い。シェフ・ド・カーヴのリシャール・ジェフロワがステンレスタンクで還元的に造り、長期熟成力を誇る。
供されたのは2003、1999マグナム、1988マグナム、1992、1990、1982、1978。2003は発売自体が話題になった猛暑の年で、クリュッグ、クリスタル、ボランジェなど一握りしか生産されていない。十数年でどのように進化したか。興味があった。スモーキーで、アプリコット、オレンジの香り。酸は低く、フェノリッックな要素もあるフルボディだが、過熟感はなく、フレッシュさを閉じ込めている。60％のピノ・ノワールが肩幅の広さと骨組みをもたらした。未体験の感覚だった。暑かった1959や1976と同様に、偉大なヴィンテージに進化するだろうか。興味深く見守りたい。
マグナム瓶はやはり、最適のシャンパーニュの入れものだ。1999もよく熟して、アルコール度が高くなったものの、成長がゆっくりで、想像以上にフレッシュ。レモンオイル、グレープフルーツ、砕いた石。果実は凝縮しているが、しっかりと酸を保っている。クリーミーで、質感はまろやか。還元的な味わいの中で、焦点があっていて、ブレがないというドン・ペリニヨンの個性が際立っていた。ジェフロワは「酸化は敵だ。私の試飲コメントには存在しない」という。まさにその通り。
1988はさらに生き生きしていた。ドン・ペリニヨンは89を出していないが、90まで続いた３年連続の偉大なヴィンテージの中で、最も酸が強い。偉大なメゾンはどこも若々しいが、ドン・ペリニヨンも例外ではない。レモンのコンフィ、傘の開いていない白いキノコ、ほのかにハチミツ。タイトで、ソリッドで、正確。シャルドネのフレッシュ感がきれいに出たリニアな味わいだ。10年は優に保つ。
この日最大の発見が1992。トリオと1995の間で見過ごされがちなヴィンテージだが、フルーティーさを残し、キノコ的になっていない。焼いた牡蠣殻、マンダリン・オレンジ、塩キャラメル。ビシッとした骨組みと果実の快活さがある。状態の良い1992があれば買いだ。1990はまぎれもないビッグ・ヴィンテージ。オレンジのさした黄金色。マーマレードジャム、トフィー、シナモンの香りが爆発する。まさに泡のあるモンラッシェ。甘露の味わいと、還元的な熟成からくるほろ苦さがネットリと絡まりあう。1990はピークを過ぎたプレスティージュ・キュヴェも多いが、これは今が飲み頃。官能的で、開放的。
ドン・ペリニヨンの強みは、恵まれたリソースだ。オーヴィレールと8つのグランクリュが核を成すが、買いブドウも含めてすべてのグランクリュを使える。そこに「ミスター還元」ジェフロワの「酸化は老化と同じ。年をとるのは抑えなければならない」という哲学があるから、平均的なヴィンテージの水準も高い。
1982は豊作の年だが、エネルギーが詰まっている。クレーム・ブリュレ、黒蜜。エキゾチックで、ややゆるいが、余韻に塩っぽい味わいが後をひく。1978のヴィンテージ評価は低いが、テンションがあり、細く、長い余韻に、チョーキーなミネラル感がまとわりつく。いまだにフレッシュなセンセーションを残している。
生産量は500万本以上と言われるドン・ペリニヨン。スモール・イズ・ビューティフルが習わしのワイン界だが、安定した高品質を大量生産している技術の高さを称揚すべきだろう。
竹内氏と大越氏が組み上げたシャンパーニュとの相性を考慮した白子やフォアグラの茶わん蒸しなどの料理も素晴らしく、ジェフロワがいても満足したであろうワイン会であった。
2016年1月17日 長野・軽井沢の吉川慎二氏邸で
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 2003
95点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1999 マグナム
96点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1988 マグナム
94点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1992
93点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1990
97点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1982
92点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1978
91点
ドン・ペリニヨンは最も有名で、最も大量に生産されているシャンパーニュの一つだ。18世紀のレプリカボトルで1936年に世に出た1921ヴィンテージは、プレスティージュ・キュヴェの先駆けでもある。ブレンド比率はシャルドネとピノ・ノワールがほぼ半々だが、通常はシャルドネが5％多い。シェフ・ド・カーヴのリシャール・ジェフロワがステンレスタンクで還元的に造り、長期熟成力を誇る。
供されたのは2003、1999マグナム、1988マグナム、1992、1990、1982、1978。2003は発売自体が話題になった猛暑の年で、クリュッグ、クリスタル、ボランジェなど一握りしか生産されていない。十数年でどのように進化したか。興味があった。スモーキーで、アプリコット、オレンジの香り。酸は低く、フェノリッックな要素もあるフルボディだが、過熟感はなく、フレッシュさを閉じ込めている。60％のピノ・ノワールが肩幅の広さと骨組みをもたらした。未体験の感覚だった。暑かった1959や1976と同様に、偉大なヴィンテージに進化するだろうか。興味深く見守りたい。
マグナム瓶はやはり、最適のシャンパーニュの入れものだ。1999もよく熟して、アルコール度が高くなったものの、成長がゆっくりで、想像以上にフレッシュ。レモンオイル、グレープフルーツ、砕いた石。果実は凝縮しているが、しっかりと酸を保っている。クリーミーで、質感はまろやか。還元的な味わいの中で、焦点があっていて、ブレがないというドン・ペリニヨンの個性が際立っていた。ジェフロワは「酸化は敵だ。私の試飲コメントには存在しない」という。まさにその通り。
1988はさらに生き生きしていた。ドン・ペリニヨンは89を出していないが、90まで続いた３年連続の偉大なヴィンテージの中で、最も酸が強い。偉大なメゾンはどこも若々しいが、ドン・ペリニヨンも例外ではない。レモンのコンフィ、傘の開いていない白いキノコ、ほのかにハチミツ。タイトで、ソリッドで、正確。シャルドネのフレッシュ感がきれいに出たリニアな味わいだ。10年は優に保つ。
この日最大の発見が1992。トリオと1995の間で見過ごされがちなヴィンテージだが、フルーティーさを残し、キノコ的になっていない。焼いた牡蠣殻、マンダリン・オレンジ、塩キャラメル。ビシッとした骨組みと果実の快活さがある。状態の良い1992があれば買いだ。1990はまぎれもないビッグ・ヴィンテージ。オレンジのさした黄金色。マーマレードジャム、トフィー、シナモンの香りが爆発する。まさに泡のあるモンラッシェ。甘露の味わいと、還元的な熟成からくるほろ苦さがネットリと絡まりあう。1990はピークを過ぎたプレスティージュ・キュヴェも多いが、これは今が飲み頃。官能的で、開放的。
ドン・ペリニヨンの強みは、恵まれたリソースだ。オーヴィレールと8つのグランクリュが核を成すが、買いブドウも含めてすべてのグランクリュを使える。そこに「ミスター還元」ジェフロワの「酸化は老化と同じ。年をとるのは抑えなければならない」という哲学があるから、平均的なヴィンテージの水準も高い。
1982は豊作の年だが、エネルギーが詰まっている。クレーム・ブリュレ、黒蜜。エキゾチックで、ややゆるいが、余韻に塩っぽい味わいが後をひく。1978のヴィンテージ評価は低いが、テンションがあり、細く、長い余韻に、チョーキーなミネラル感がまとわりつく。いまだにフレッシュなセンセーションを残している。
生産量は500万本以上と言われるドン・ペリニヨン。スモール・イズ・ビューティフルが習わしのワイン界だが、安定した高品質を大量生産している技術の高さを称揚すべきだろう。
竹内氏と大越氏が組み上げたシャンパーニュとの相性を考慮した白子やフォアグラの茶わん蒸しなどの料理も素晴らしく、ジェフロワがいても満足したであろうワイン会であった。
2016年1月17日 長野・軽井沢の吉川慎二氏邸で
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 2003
95点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1999 マグナム
96点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1988 マグナム
94点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1992
93点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1990
97点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1982
92点
ドン・ペリニヨン シャンパーニュ 1978
91点
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