世界の最新ワインニュースと試飲レポート

MENU

  1. トップ
  2. 記事一覧
  3. ピンチをチャンスに 菊地唯夫ロイヤル・ホールディングス代表取締役会長

ピンチをチャンスに 菊地唯夫ロイヤル・ホールディングス代表取締役会長

  • FREE

3度の危機に直面


日本ソムリエ協会「Sommelier」179号掲載


コロナ禍前から「ロイヤル・デリ」を開始

 ロイヤルホールディングスも、新型コロナウイルスのダメージからは逃れられなかった。

 4つの柱となる事業がある。ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」などの外食、空港や病院で飲食や物販を展開するコントラクト、機内食、「リッチモンドホテル」などのホテル。


 多彩なポートフォリオで安定性を保てるはずが、人の移動が止まって、どの事業も大きなインパクトを受けた。店舗は休業や時間短縮を行い、イベントは中止になった。航空便は減便となり、観光や出張による宿泊客が減った。


 サービス産業は基本的に提供と消費を同時に行うものだが、コロナ禍により消費者もレストランまで足を運ばなくなった。ロイヤルホールディングス傘下のレストランもイートインだけではなく、テイクアウトに力を入れている。


 ロイヤルホストでは、オンラインや店舗で「レストラン品質のフローズンミール」をうたう「ロイヤル・デリ」を販売している。試食してみたが、コンビニやスーパーの惣菜やファストフードの出前とは一線を隠す、きちんとした味付けの料理だった。


 この事業はほかの外食企業のように、あわてて始めたデリバリーやテイクアウトのサービスとは違う。スタートしたのは、コロナが始まる2019年12月だった。


 菊地の視野は広く、状況を分析して時代の先を読む先見性がある。彼が経営戦略で最も重視しているのは持続的な成長(サステイナビリティ)だ。


 日本の外食チェーンはこれまで店舗を増やして、売り上げを増やす図式で成長を続けてきた。それが難しくなりつつある。


 人口減で胃袋は減っているのに、原材料のコストは上がっている。慢性的な人手不足はサービスの低下を招く。それは顧客満足度の低下につながる。


生産性向上のために技術を導入
サービスの向上で付加価値


 どうしたら生産性を高められるか?


 菊地が考えたのは、顧客満足度につながる部分に人間を配置し、機械で代用できる部分にはテクノロジーを投入するというものだった。


 調理の現場では、パナソニックの開発した最新のマクロウエーブ・コンベンションオーブンを導入した。これによって調理の時間を短縮し、料理の安定性を高められた。


 レストランで提供する食事をロイヤル・デリで販売するのを見越した技術開発だった。それがコンビニの惣菜などにシェアを食われていた中食市場への進出につながっている。


 また、閉店後の掃除は、業務用の大型掃除機に代わって、お掃除ロボットが夜中に店舗をきれいにしている。最新型のPOSレジを導入することで、40分かけていた1日の売り上げを締めるレジ締めが、一瞬で終わるようになった。


 一方で、サービスの根幹にかかわるスタッフはより一層大切にした。ロイヤルホストは2017年、24時間営業を廃止した。元日を含む店舗休業日を設定し、従業員の有給休暇取得を進めた。


 コンビニで議論されている365日24時間オープンをいち早く止めたのだ。


 開店している時間は減るものの、ファミレスにとって重要なサービスの質を向上させた。国産や海外の上質な食材を使った料理も充実させた。客単価は上がり、2017年と2018年の売り上げは前年を上回った。


 生産性を高めて、付加価値をつけ加えたのだ。これは、働き方改革としてメディアに取り上げられたが、表面的な労働環境の整備ではなく、客観的な経営戦略に基づいて行われたのだ。


 二子玉川の店舗では、実験的なキャッシュレスにもトライしている。


 菊地はそれらの改革を「パソコンを製造するのではなく、OSを開発するようなもの」と表現する。ハードを作るのではなく、システムを動かすソフトウェアを構築するという意味だ。


日債銀破綻で学んだ教訓
持続的な成長が経営の基本


 菊地がサステイナビリティを重く見るのは理由がある。それはロイヤル・ホールディングスの前身であるロイヤルにリクルートされる前の仕事と関わっている。


 日本債券信用銀行で頭取秘書を務めていた1998年12月、経営破綻を経験した。融資先の企業も、株主も、従業員も、だれもが大きな打撃を受けた。  


 フランスのグランゼコールのビジネススクールに留学したエリート行員は当時30歳。そこから多くを学んだ。


 「生々しい現場に直面して、企業は常に変化に対応し、持続的に成長しなければいけないということを身をもって学びました。市場が縮小しても、成長できるビジネスモデルを作るのが経営の基本です」


 その後、ドイツ証券で働き、企業の資本調達を行っていたが、ロイヤルにいた日債銀のOBから声がかかり、畑違いの外食産業に転じた。


 「仕事は面白かったのですが、”肉食的な”外資系の金融機関にいて、5年後、10年後の自分の将来像は描けませんでした。金融で蓄えた理論があったから、それを実業の世界で活かしたいという思いもあって転職しました」


 2004年に入社し、叩き上げの先輩を追い越して代表取締役社長になった。2010年。44歳だった。営業畑と管理畑の内紛が起きて、ここでも苦労はあった。そして、翌2011年。東日本大震災に襲われた。


一対一のコミュニケーションが基本

 社長になってからは、経営と現場の壁を取り払うため、ロイヤルホストや天丼てんやを1人で訪ねて、現場の声を聞いた。社員と直接対話する「経営塾」も始めた。


 東日本大震災では単なる視察ではなく、炊き出しで20人の料理人らとともに汗を流した。ヴォランティアをしてあげると気持ちは間違いで、させていただいているという意識を持つべきだと学んだという。


 「大人数を相手にするのではなく、一対一でコミュニケーションをしないと、色々な声は入ってきません。そうした関係をどれだけ築けるかにかかっています」


 京都大学経営管理大学院の特別教授も務める経営理論の論客だが、サービス産業の基本にある一対一の関係の重要性を理解している。2700人を超す企業だが、社員の顔と名前を覚えているのを社員から驚かれるという。


 仕事柄、外食の機会は多い。スーパーマーケット、IT、人材派遣など、異なる業界の人々と会って、視野を広げている。ここでも基本は人間関係である。


 取材中の話しぶりは淡々としている。大学教授のよく練られた講義を聞いているように、内容がすとんと落ちてくる。


コロナ禍は一気に変えるチャンス


 今回のコロナ禍も含めると、銀行の破綻、社内の内紛、3度もの大きな危機に直面してきたが、どのように克服してきたのだろうか?


 「ストレスをためない方です。イートインがだめなら、デリバリーがあるという風に。逮捕されて、最終的に無罪になった日債銀の頭取も言ってました。『止まない雨はない。明けない夜はない』と」


 コロナ禍はピンチではなく、むしろチャンスだとプラスに受け止めている。


 「少子高齢化など外食産業のかかえる問題は、時間があるから有効な手立てがうてなかったと。過去の成功体験が通用しなくなるという不安は皆が持っていましたが、小手先でしのいできた。時間軸が短縮されている今だからこそ、一気に変えられるんです」
 

profile
菊地唯夫(きくち・ただお)
1965年生まれ。日本債券信用銀行を経て、2004年にロイヤル入社。代表取締役社長を経て、2019年から現職

経営塾
東日本大震災炊き出し支援

購読申込のご案内はこちら

会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!

Enjoy Wine Report!! 詳しくはこちら

TOP