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2020年の米国のワイン業界は、トランプ大統領が検討しているEU産ワインへの100%の追加関税をめぐって、議論が沸騰している。主要新聞、評論家らが年初から反対意見を表明する一方で、カリフォルニアの生産者の間ではEU側の報復関税への不安が高まっている。
問題の発端はEUによる航空機大手エアバスへの補助金を巡る貿易摩擦。世界貿易機関(WTO)が2019年10月、米国のヨーロッパ製品に対する75億ドル相当の報復関税を承認したのを受けて、米国はフランス、ドイツ、スペイン、イギリス産のスティルワインのほか、スペイン産オリーブ、ヨーロッパ産チーズなどの農産物に25%の追加関税を課した。
その後もこの問題の交渉は難航し、米国通商代表部(USTR)は12月、対象となる品目をEU加盟国のウイスキー、ワイン、チーズや肉などの農産物に拡大して、最高100%の追加関税を課す意向を表明した。対象となるのは、イタリア、ポルトガル、オーストリア、チェコスロバキア、ギリシャ、スロヴェニアなどのワイン、シャンパーニュなどのスパークリングワイン、酒精強化ワイン、アイリッシュ・ウイスキーが含まれる。
関税率を100%のレベルまで引き上げる措置について、USTRは1月13日までパブリック・コメントを募集している。その期限が迫るのを前に、2020年の幕開けから、新聞やワイン雑誌などで、関税率引き上げに反対する意見表明が相次いでいる。
米国ではアルコールの流通は輸入業者、卸売業者、レストランを含む小売業者の3ティアシステムをとっている。100%の関税が実施されると、ワインの価格は約1.5倍上がると見られている。ワシントン・ポスト紙が紹介した仮定の例では、輸入業者がイタリアのワイナリーで2ドルで購入したワインは、100%関税の場合、小売価格が14ドルとなり、レストランでの価格は40ドルとなる。蔵出し価格が10ドルの高級ワインは、25%関税の場合は小売価格が33ドル、100%関税の場合は51ドルとなる。
カリフォルニアワイン産業のお膝元であるLAタイムズは「輸入業者、販売業者、ワインショップのオーナー、ソムリエ、ワインバイヤーなど、米国の幅広いワインビジネスがネガティブな影響を受ける。多くの関係者が利益を劇的に減らす結果、給料への直撃と人員削減への不安を口にしている」とする記事を掲載した。
価格の上昇だけでなく、小規模な輸入業者が扱う独立系生産者については、資金繰りの問題などから輸入量が減少するなど広範な影響が予想される。英国のジャンシス・ロビンソンがパープル・ページの記事で、「100%の関税を実施すると、米国の収益の減少は20億ドルを超し、1万人が職を失う」という予測を紹介している。
有料ワインサイト「ヴィノス」のCEOアントニオ・ガッローニは2日に強い反対意見を表明した。米国のワイン産業は174万人を雇用し、小売りとホテル・レストランなどのホスピタリティ業界で681億ドルの売り上げを生み出している。売り上げの3分の1は輸入ワインで、そのうち75%はEU諸国からくる。25-100%の関税はリカーショップ、セールスマン、運送業者などワイン産業で働く人々を直撃するとしている。
彼は「ワインは容易に交換可能な産品ではない。貿易戦争の中で、EUワインの消費は米国ワインにシフトしない。最高の価値を持つEUワインは、製造業が容易に増減できるスマートフォンやウィジェットとは異なる。いったん米国の経済領域から取り除かれたら戻ってこない」と危機感をあらわにした。
また、EUはカリフォルニアワインの最大の輸出市場であり、EUが米国ワインへの報復関税を課したら、米国のワイナリーが荒廃するとの見方を示した。
今回の問題に関連して、11月に来日したカリフォルニアワイン協会の国際部長オナー・コンフォートは「我々は自由貿易を支持してきた。我々の使命は開放された市場で、カリフォルニアワインをサポートすること」と自由貿易を信奉する姿勢を強調した。
日本では、FTA(自由貿易協定)に支えられて、関税が撤廃されたチリワインの輸入が増加している。EUや米国のデイリーワインの成長が期待されているのも、FTAの恩恵をこうむっている。自由貿易はワインの消費やワイン文化の発展の基礎をなしており、米国とEUのワイン・農産物をめぐる貿易摩擦は、日本のワイントレードや消費者にとっても対岸の火事ではない。
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