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ブルゴーニュ連想させる単一畑、ジゴンダスの星シャトー・ド・サン・コム

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 北から南まで様々なワインを4日間にわたり試飲して回る「ドゥクヴェルト・コート・デュ・ローヌ」に参加して、大きな発見だったのがジゴンダスだ。南部ローヌのヴォークリューズ県にある赤ワイン主体のアペラシオンは、日本ではなじみが薄いが、ブルゴーニュの愛好家にアピールしそうな特色を備えている。


 南部ローヌの中心アヴィニヨン。かつて教皇庁が設置された都市は、TGVでパリから3時間と意外に近い。シャトー・ヌフ・デュ・パプはアヴィニヨンから北へ30分。そこからさらに北西へ15分ほど走ると、ジゴンダスに着く。ジゴンダスとシャトー・ヌフ・デュ・パプの距離は25キロと近いが、テロワールは大きく異なる。


 シャトー・ヌフ・デュ・パプは平地に丸い石が転がるが、ジゴンダスはデンテル・ド・モンミライユ山脈の裾野に畑が広がる。標高140mから400mの斜面。山から吹き下ろす風と北からのミストラルで涼しい。冬は山頂に雪が積もる。収穫はパプより2週間遅い。森林面積が1500haと広いのに対し、ブドウの栽培面積は1200haにとどまっている。生物的多様性に富むうえに、森の存在自体が涼しさをもたらす。斜面上部に森があり、その下部に畑が点在する風景が広がる。土壌は石灰岩と泥灰土がミルフィーユ状に折り重なっている。


 冷涼な気候と石灰岩が広がる土壌に、ブルゴーニュとの共通点がある。主要品種はグルナッシュ。「グルナッシュは南のピノ・ノワール」という造り手がいるが、ジゴンダスのグルナッシュには緊張感があり、一定の説得力がある。シャトー・ヌフを1929年にAOCにしたル・ロワ男爵はジゴンダスをみおとした。コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ初のアペラシオンだったが、1971年にようやくクリュワインに格上げされた。


 ジゴンダスを代表するスターで、生産者委員会の委員長を務めるルイ・バリュオールのシャトー・ド・サン・コムを訪問した。この地に2世紀に入植したというローマ人の歴史を感じる。カーヴは石灰岩を穿って造られ、12世紀に建造された礼拝堂が残っている。ルイは1992年に父アンリの跡を継いだ。父の時代から農薬や除草剤を使っておらず、オーガニックの認証を得ている。


 単一畑ワインを仕込むル・ポストの区画を歩いた。標高280m。北北西を向いている。朝日はモンミライユ山にさえぎられ、柔らかい夕日が畑にあたる。これがワインにフレッシュ感をもたらすという。鋭角的な石灰岩の破片が交じる畑はブルゴーニュを想起させる。15haの畑の70%にグルナッシュを植え、残りはシラーとムールヴェド、サンソーをわずか1%植えている。平均樹齢は60年。


 醸造は伝統的。介入を排している。野生酵母により、コンクリート槽か木桶で、全房100%で発酵させる。マセラシオンの期間は4-6週間と長い。新樽比率は20%以下で、12か月間熟成する。35区画から選別してブレンドするフラッグシップのジゴンダスとグルナッシュ100%の3つの単一畑を仕込んでいる。


 「シャトー・ド・サン・コム ジゴンダス 2017」(Chateau de Saint Cosme Gigondas 2017)はグルナッシュ70%、シラー14%、ムールヴェドル15%、サンソー1%。ブラックチェリー、黒オリーブ、木炭、タイトなテクスチャー、ビシッとした酸に支えられ、硬質な緊張感が持続する。開くのに時間がかかる。91点。

 
 「シャトー・ド・サン・コム ジゴンダス・ル・クロー 2017」(Chateau de Saint Cosme Gigondas Le Claux 2017)は、フィロキセラ後の1870年代に植えたグルナッシュ100%の1.8haの畑から。粘土石灰岩に泥灰土、表土に砂利が交じる。最も冷涼で最後に熟す区画。2006年から詰め始めた。スミレ、ブラックラズベリー、ストーニーなテクスチャー、繊細で、うまみが乗っている。冷涼な畑のピノ・ノワールを思わせる。正確なフィニッシュ。1ヶ月前に詰めたばかりでやや閉じ気味。92点。


 「シャトー・ド・サン・コム ジゴンダス・オミニス・フィデス 2017」(Chateau de Saint Cosme Gigondas Hominis Fides 2017)は淡黄褐色の砂地交じりの土壌。ダークベリー、チョコレートがけのペパーミント、タンニンは穏やかで、柔らかいテクスチャー、ほっそりしたミディアムボディ、クリーミィで長いフィニッシュ。93点。


 「シャトー・ド・サン・コム ジゴンダス・ル・ポスト 2017」(Chateau de Saint Cosme Gigondas Le Poste 2017)は礼拝堂を取り囲むテラスの、海洋性化石を含む石灰岩と泥灰土土壌。最もしっかりしたストラクチャーで、力強いタンニン、凝縮している。ブラックベリー、リコリス、木炭、テクスチャーは丸みがあり、焦点があっている。深みがある。継ぎ目のないフィニッシュ、口中で長く反響する。スーパー・ジゴンダス。95点。


 十数年前に飲んだジゴンダス・キュヴェ・ヴァルベル1998の素晴らしさを語ったら、ルイがカーヴの奥から古びたボトルを持ってきた。キュヴェ・ヴァルベル2006だった。「ヴァルベル1998はル・クロー、オミニス・フィデス、ル・ポストの古木をブレンドしていた。2015年に止めた」と。


 「シャトー・ド・サン・コム ジゴンダス・キュヴェ・ヴァルベル 2006」(Chateau de Saint Cosme Gigondas Cuvee Valbelle 2006)はグルナッシュ90%とシラー10%。腐葉土、ガリーグ、あぶった肉、シルキーで、タンニンの骨組みはしっかりしていて、醤油的なうまみを伴う味わい。セクシーで、タバコ、ブラウンハニー、果実が折り重なり、フィニッシュはややおおらか。熟成力を示す素晴らしいジゴンダスだが、正確さでは単一畑が上回る。単一畑を始めたわけがわかった。94点。


 常にオープンマインドでいたいというルイは、アンフォラでの発酵も実験したが、良くなかったので止めた。「新しい技術が伝統的な技術を殺すことはめったにない」という。ブルゴーニュを年に数回訪れて、アイデアを交換している。最近は、ジャック・プリウールのチームが訪れてきたという。「ジゴンダスでブルゴーニュの手法を使えばたいていはうまくいく」と。ジゴンダスは気温の低さから、南ローヌの中の北ローヌと呼ばれる。温暖化が進む今、可能性がある。

区画の違いを表現する単一畑を手がける
ブルゴーニュ生産者との交流が深いルイ・バリュオール
遠くの石灰岩が隆起したデンテル・ド・モンミライユ山に朝日がさえぎられるル・ポストの畑
角ばった石灰岩と泥灰土
ローマ人が12世紀に建てた礼拝堂

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