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ペトリュスvsダックホーン メルロで”東京の審判”

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ヴィノテーク2014年1月号掲載

 1976年のパリ試飲会の功績は、カリフォルニアワインを世界地図に載せただけではない。フォロワーが大勢生まれた。新世界の生産者たちが、ベルリンやカリフォルニアでブラインド試飲会を開いた。東京でも2013年11月16日に、新旧世界のメルローを対決させる会が行われた。
 旧世界のメルロー代表はペトリュス。誰も異論はないだろう。対するのはカリフォルニアのダックホーン・ヴィンヤードのスリー・パームス・ヴィンヤード。ダックホーンはナパヴァレーのメルローの先駆であり、1978年に単一畑としてデビューしたスリー・パームスの名声は知れ渡っている。テイスティンググラスに注がれたのは3つのヴィンテージ。1995年、2004年、2008年であった。2008年だけはペトリュスではなく、ラフルール・ペトリュス。市場価格が高すぎて、ラフルール・ペトリュスで代用させたのだという。古いヴィンテージから新しいヴィンテージという順番で、ブラインド試飲した。
 1995はグラスを回すまでもなかった。最初に供されたグラスは、ブラックチェリーのジャム、スモーキーな香りがある。ペトリュスから黒い果実の香りはしない。たっぷりした果実が口中で踊る。2番目は枯れ葉、ローストしたコーヒー豆の香り、巨大なエキスがあり、目が詰まっている。余韻も極めて長い。過去に樽やボトルで飲んだペトリュスの味わいを反芻した。驚いたのはダックホーンの若々しさだった。明るいガーネットを残している。ペトリュスの方はエッジにやや茶色が出ている。思いのほか熟成が早い。もっとも、そこから先の道のりが長いのだが。
 1995年のポムロールは長期熟成型のヴィンテージだったのに対し、ナパヴァレーは春の熱波と5月のヒョウで少量生産。スリー・パームスはメルロー76%、カベルネ・フラン18%、カベルネ・ソーヴィニヨン6%。ペトリュスはもちろんメルロー100%。正直に告白すれば、私の好みはペトリュスだった。ボルドーを飲んで育ったからだろう。先日、カリフォルニアで、ターリー・ワイン・セラーズのジンファンデルを飲んで、「シャーヴのエルミタージュのようなミネラルを感じる」と話したら、当主のラリー・ターリーは「君はヨーロピアン・パレットの持ち主だな」と話していた。なるほどと納得した。ただ、両者を平均的な愛好家に飲ませたら、大半はダックホーンを好きな方に手を上げるだろう。アメリカ人も日本人も。フルーティで、親しみやすいからだ。ペトリュスはタイトニットで、ミネラル感に支配されている。
 2004は違いが明確になった。ダックホーンは凝縮度もアルコール度も高い。タンニンがよく重合しているが、樽が残っている。ペトリュスは深みと奥行きがあるが、内向的で、中途半端な段階だった。ダックホーンは新樽100%で20か月間、ペトリュスは新樽40%で18か月間の熟成だから、樽のニュアンスは無理もない。2008はさらに、新旧世界の一般的なイメージの違いが際立った。ラフルール・ペトリュスはメルロー80%、カベルネ・フラン20%。そもそも比較の物差しが異なるのだが、果実味主体で開放的なカリフォルニアに対して、ミネラル感主体で目の詰まったボルドーという構図が浮き彫りになった。
 1995のグラスを前に改めて気づいたのは、カリフォルニアの古いボルドー品種はきれいに熟成するということだ。もう10年ほどたったところで、再び対決させてみたい。ダックホーンの古いメルローは何度か飲んだが、複雑性があって好ましい印象を受けた。不十分な選別もよい方向に働いていたのかもしれない。現在は果実の完熟度を重視している。古酒に詳しいワイン・インスティテュートの堀賢一・駐日代表は「青さに根ざす複雑性が飲み手に好まれなくなってきた。1980年代のボルドーは除梗した後に果梗を戻すことを行い、そのスパイシーさが好まれていた。ロバート・パーカーの影響だけでなく、嗜好の変化がワインに反映している」と語る。
 今回の企画は、あるマスター・オブ・ワインのアドバイスに触発されたもので、世界に先駆けて日本で行われた。私の結論としては優劣はつけられなかった。我々はよく、ボルドーに間違えるとか、ブルゴーニュとの違いがわからないという表現で、新世界のワインをほめる。それはしかし、ヨーロッパのワインが優位に立っているという前提での話だ。カリフォルニアとボルドーでは、年間日照量も違えば、土壌も違う。ペトリュスは保湿性の高い特別な粘土土壌で、スリー・パームスは沖積土壌を火山性の岩が覆う水はけのよい畑。アメリカンビーフとシャロレ牛を比較しても、味わいは好みの問題であって、どちらが優れているという問題ではない。
 ダックホーンのワインメーカーはニュージーランド出身のビル・ナンカロウ。ヨーロッパ的な味わいか、アメリカ的な味わいかを意識しているのかたずねた。
 「ワインを造る際に、そんなことは考えない。それは私がニュージーランド人ということも関係あるかもしれない。私の役目は、スリー・パームスのテロワールを引き出すことだけ」
 最後はテロワールに落ち着いた。

 肩書は当時のまま。

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