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2022年サンテミリオンの格付け、昇格の可能性があるのは?

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 シャトー・アンジェリュスの2022年格付け撤退はサンテミリオンに衝撃を与えたが、格付けは予定通り行われる。多くのプルミエ・グラン・クリュ・クラッセがレースに参加する中で、どのシャトーに可能性があるのか。


 10年おきに行われるサンテミリオンの格付けは、2021年夏の申請時に、1955年から頂点に立ち続けてきたプルミエ・グラン・クリュ・クラッセA(1er GCC-A)のオーゾンヌとシュヴァル・ブランの2シャトーが、審査基準を理由に格付けに参加しないことを表明して、異変が生じた。


 2012年の格付けで1er GCC-Aに昇格したアンジェリュスは、共同経営者ユベール・ド・ブアールが格付けを巡って利益相反があったとして有罪判決を受けたのを受けて、年明け早々の5日に格付けからの撤退を発表した。


 これによって、1er GCC-Aのエリート・クラブに、2012年に昇格したシャトー・パヴィだけが残る異常な事態となった。格付けの存在意義に疑問の声が上がる中で、サンテミリオンのワイン評議会は「アンジェリュスの撤退は残念だが、集団的な観点からはこのアペラシオンにおけるシャトーとそのチームの取り組みは変わらない」として、INAOの仕事を尊重して予定通りに格付けを行う方針を表明した。


フィジャック、カノン、トロロン・モンド


 今のところ、マノンクール家が長年昇格を目指してきたフィジャックが1er GCC-Aに立候補している。支配人のフレデリック・フェイの下で、2021年春にシャトーが最新設備を備えたセラーに刷新した。格付けの有用性とアペラシオンのブースターとしての役割を重視している。


 支配人のニコラ・オードベールの下で急成長しているカノンも昇格を目指している。オーナーはシャネル・グループ。ラグジュアリー企業にとって、格付けがもたらすブランド性は重要だ。


 ロバート・パーカーが見出したトロロン・モンドもセラーを刷新し、ホテルとレストランを新設しワイン観光にも力を入れている。コス・デストゥルネルの総支配人から移籍してきたアイメリック・ド・ジロンドが、昇格を目指している。


 クリスチャンとエドアルドのムエックス父子が注力するベレール・モナンジュも、オーゾンヌと並ぶプラトーを備えるテロワールを有し、昇格の実力がある。どのシャトーも設備刷新や栽培の注力によって、近年はワインの品質を上げていて、評論家の点数も高い。


短期的すぎる10年ごとの更新


 格付けは狭いアペラシオンのサンテミリオンの品質向上の原動力であるのは間違いないが、ワインの価格にも大きな影響力を与えている。2012年に昇格後、アンジェリュスとパヴィの価格は大きく上がった。2011のプリムール売出し価格は、アンジェリュスが30%、パヴィが58%上昇した。ワインだけでなく、地価も高騰している。


 サンテミリオンの格付けは利害関係のある人々によって、考案され、発展してきた。そのため、格付けがブランドを売るためのシステムとなっている。10年ごとに更新する期間が短期的すぎるという見方もある。その間に、所有者の変更や設備の刷新で品質を上げたとしても、長く飲まれるワインである以上、ラベルに表示される格付けには歴史の審判に耐える長期的な視野が求められる。


 1855年のボルドーの格付けと比較すると、格付けの意味合いが理解できる。メドックの生産者たちは長い歴史の中で、アウトサイダーの参入やコンサルタントの助言による進化を経験してきた。地勢を含むテロワールが基本的に変わらないとしても、オーナーの投資や支配人の能力によってワインの品質は上がることを理解している。

 

 150年前に定められたメドックとペサック・レオニャンの等級は実態は変化している。だが、最新のシャトーの状態とワインの品質はトレードや評論家、消費者も把握している。だから、1855年の格付けを変える必要性は希薄だし、あつれきを起こしてまで変えようという動きは出てこない。


 サンテミリオンには多くの優れたシャトーがある。品質競争は激しい。テロワール、名声、栽培・醸造、試飲など、どの審査基準をとっても格付けを公平に、正確に定めるのは難しい。ボルドーの進化は分刻みだ。1855年のようにワインの取引価格で決められるほど単純な時代ではなくなっている。お隣のポムロールの生産者たちは、格付けとは無縁な状況でサンテミリオンの混乱を冷ややかに見つめている。

左から、フィジャック、カノン、トロロン・モンド

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